特別受益の持ち戻しって?生前贈与の基礎知識

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親が亡くなって相続が生じたため、遺された兄弟で遺産分割協議を行うことになり、協議では喧嘩にならないよう法定相続分で均等に分けることに合意したものの、「兄さんは以前マイホーム取得の際に親から幾らか資金援助してもらっているのに不公平だな」などと感じるケースも中にはあるのではないでしょうか。

今回は、このような生前贈与があった場合に、相続分の計算を調整する「特別受益の持ち戻し」について解説します。

特別受益の持ち戻し制度って?

「特別受益」とは、相続人が複数いる場合に、ある相続人が被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けていたなど、他の相続人と比べて特別な利益(財産)を受けていた場合のその受益のことをいいます。

特別受益の対象となる財産には、次のようなものがあります。

  1. 被相続人から遺贈を受けたもの:遺言によって被相続人から贈与を受けたものは、すべて特別受益の対象になります。
  2. 婚姻又は養子縁組のために被相続人から生前に贈与を受けたもの:典型的な例としては、結婚に際して受けた結納金や支度金、婚礼道具などがあります。
  3. 生計のための資本として被相続人から生前に贈与を受けたもの:生計の基礎として役立つような贈与はすべて含まれると考えられています。例えば、マイホーム取得のための資金援助や不動産の贈与、事業資金の援助などがあります。

特別受益に該当するかどうかについて

但し、②に該当するものであっても通常必要と思われる範囲の挙式費用や、③に該当するものであっても高校・大学など一定レベルの教育を受けるために必要な学費などは、扶養義務に含まれるものとして特別受益には該当しないと一般的には考えられています。

また③については、この他にも実際には様々なものが考えられるため、財産が贈与された時の状況や財産の内容・程度などを考慮して個別に判断することになります。特に特別受益に該当するか否かについて相続人間で意見が対立するような場合には、家庭裁判所に申し出て調停・審判で決することになります。

尚、2018年の民法改正によって、従来なら③に該当するものと考えられる「婚姻期間20年以上の夫婦相互間における居住用財産の贈与」が、施行後(2019年7月以降)は特別受益の対象としないこととされたのは目新しいところです。

いずれにしてもこのような特別受益を、ある相続人が受けていた場合、特別受益の有無を含めて相続財産を配分しなければ相続人間で不公平が生じることになります。そこで、民法では特別受益を相続分の前渡しと考えて、計算上、特別受益に該当するものを相続財産に持ち戻して(加算して)相続分を算定・調整することになっています。これを「特別受益の持ち戻し制度」といいます。
特別受益とは

特別受益の持ち戻しの方法

特別受益の持ち戻しによる相続分の算定・調整は、次のような方法で行います。

①生前贈与された財産は、相続開始時点の財産価額に換算する

特別受益を持ち戻す際に、その財産価額をどの時点の価値で評価するのかが問題となります。

例えば、贈与された財産が土地であれば、地価は時の経過とともに値上がり・値下がりします。また、現金であっても10年前の100万円と現在の100万円では景気や物価の変動によって貨幣価値が異なります。

ただし、特別受益の持ち戻し制度は、相続人間の公平を図ることが目的なので、生前に贈与された財産は現在、すなわち相続開始時点の価額に換算して評価します。

②相続開始時の被相続人の積極財産価額に①で換算した財産価額を加算する

次に、被相続人の積極(プラスの)財産価額に①で換算した財産価額を加算し、特別受益がなかったと仮定した場合の被相続人の相続財産価額を算出します。

この持ち戻しを行った価額のことを「みなし相続財産」といいます。

③「みなし相続財産」に相続人の法定相続分を乗じて相続人毎の相続分を算定する

そして、「みなし相続財産」に法定相続分を乗じて相続人毎の相続分を算定します。遺言などで指定相続分が決められている場合には、法定相続分の代わりに指定相続分を乗じて算定します。

これによって、特別受益を受けた相続人以外の者の調整後の相続分が確定します。

④特別受益者は、③で算定された金額からその者が受けた①の金額を控除して相続分を算定する

最後に、特別受益を受けた者については、③で算定された金額から生前にその者が受けた①の金額を控除した残額が調整後の相続分になります。

具体例をみていきましょう。

特別受益の持ち戻し具体例

【前提条件】
被相続人の相続財産価額 5,000万円
相続人 子3人(長男・次男・長女)
20年前に長男が個人開業のために援助を受けた資金:1,000万円(現在価値 2,000万円)
10年前に次男がマイホーム取得のために贈与を受けた資金:1,500万円(現在価値 2,000万円)

【特別受益の財産価額】2,000万円+2,000万円 = 4,000万円
【みなし相続財産価額】5,000万円+4,000万円 = 9,000万円
【各相続人の相続分】
長男 : 9,000万円×1/3-2,000万円 = 1,000万円
次男 : 9,000万円×1/3-2,000万円 = 1,000万円
長女 : 9,000万円×1/3         = 3,000万円

このとおり、特別受益の持ち戻しを行うことによって、生前贈与を受けていない長女は相続時の財産配分が多くなり、結果的に被相続人が生前保有していたすべての財産を各相続人で均等(3,000万円相当)に配分する形になることが分かります。
特別受益の持ち戻し制度

特別受益の持ち戻しの免除について

特別受益の持ち戻しは、遺贈や生前贈与があった場合に必ず行わなければならないというものではありません。

被相続人が遺言などで持ち戻しを行う旨を指示している場合や、遺産分割協議で相続人が特別受益の存在を主張した場合・相続人間で相続配分について争いが生じた場合などに行われます。

従って、被相続人からある相続人に対して生前贈与があったとしても、遺産分割協議の際にほかの相続人が誰も特別受益を主張せず、持ち戻し計算しないことに相続人全員が合意していればわざわざ持ち戻しを行う必要はありません。

特別受益の持ち戻しは被相続人間の意思が優先される

また、被相続人が生前、もしくは遺言などによって特別受益の持ち戻しを免除する意思表示を行っていた場合も持ち戻しは行われません。

つまり、相続人間の公平よりも、被相続人の意思が優先されるということです。なお、この意思表示に特別な方式は要求されておらず、書面(明示)・口頭(黙示)を問わないとされていますが、後々の相続人間での争いを避けるという意味では書面で意思表示をしておく方が望ましいでしょう。

ただし、被相続人が特別受益の持ち戻しを免除する意思表示を行っていたとしても、相続人の遺留分まで侵害することはできません。持ち戻しを免除された特別受益が他の相続人の遺留分を侵害することで、その者から遺留分の減殺請求があった場合には応じなければならないのでその点は注意が必要です。
特別受益の持ち戻しの免除

まとめ

相続において被相続人の財産をどのように分けるかは、遺言あるいは相続人全員による遺産分割協議で決定するのが原則です。

つまり、被相続人の意思又は相続人間の話し合いによって遺産分割が円満に解決できるようであれば、そもそも特別受益が問題になることはありません。

特別受益が問題になるということは少なからず相続人間に不公平感があって不満や対立が生じていることにほかなりません。財産を遺す者としては、できればこのような事態は避けたいものです。

生前贈与に際しては、極力相続人間で不公平が生じることがないよう細心の注意を払って行うとともに、将来相続人間で特別受益が問題になりそうな場合には、遺言を遺すなどの回避策を専門家に相談してみることをお勧めします。

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